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La vida sense la Sara Amat サラ・アマットのいない人生

スペイン映画 (2019)

カタロニア語で書かれた文学作品に対する最高の賞サン・ジョルディ賞を2016年に受賞した同名小説を映画化した2019年のスペイン(カタロニア)映画。作家の名前はペップ・プイグ(Pep Puig)。ペップは小説(映画も)の主人公ペップと同じ名だ。受賞時のVilaWebのインタビューによれば、自伝的小説ではないが、小説の舞台となっているテラサ(Terrassa)近郊の村ウラストレル(Ullastrell)は、作家のペップ・プイグが実際に夏に過ごした祖母の家のある村。彼は1981年の夏休みにこの村に滞在したが、その時代も小説と同じ。ただし、サラという少女は、彼が前年に出版した『L’amor de la meva vida de moment』の主人公を、読者からの批判に応える形で、より深く掘り下げた人格に変えたもの。自伝的要素は、村の描写などに生かされている。原作は、「私という人間を位置付けるとしたら、まず1981年のカレンダーが必要だ。8月の終わりから9月の初めにかけての。それは、ウラストレルの祖母の家で過ごした最後の日々だった。テラサに戻ってEGB(一般基礎教育)の7年生になる前の。その時、私は12歳だった」という言葉で始まる。そして、主人公のペップは、30年後になり、9月3日木曜の夜にサラがペップを残して村を去った日を、生涯で最も悲しい日々として記憶に留めている。『サラ・アマットのいない人生』という題名は、サラを失ったことが如何にペップにとって大きな喪失だったかを示している。映画では、30年前の回顧というスタイルをとらず、いきなり1981年の鬼ごっこから始まるので、『消えたサラ・アマット』とでもした方が、内容をストレートに反映している。思春期の少年の微妙な心の揺れや、性への目覚めを描いた小説や映画は多いが、この映画の設定、すなわち、「鬼ごっこの最中にいなくなった少女が、主人公の部屋に10日間隠れる」という設定は、実に斬新で例がない。この少女サラは、非常に知的で、田舎の小さな村で囚われ人のように過ごすことに嫌気がさし、外の世界に逃げ出したいと考えている。それを実行に移したきっかけの1つは、自分の出自を1ヶ月前に知って父母をますます嫌いになったこと。もう1つは、鬼ごっこの最中にペップから、「そんなに遊びたくないなら、なぜ一緒にいるの?」と訊かれたこと。サラは、衝動的に逃げ出し、ペップの部屋に隠れる。最初は一晩だけといって納得させ、翌日、警察に訊かれて嘘をついて庇うと、嘘は犯罪行為だと脅して居続ける。ペップは、昨年来た時からサラが好きだったので、祖母に見つかることの恐怖を乗り越えてサラを匿い続け、サラを愛するようになる。サラも、ペップの勇気と優しさに感謝する。しかし、サラにとって、村を出て行くことは至上命題だった。右の写真は、原作本の表紙。映画より1歳年下の12歳なので、幼い感じがする。

1981年8月末、祖母の家でのペップの夏休みも終わりに近づいていた。小さな村の似た年齢同士の遊び友達はペップを入れて8人しかいない。毎日、日中はプール、夕方はベンチの周りで何をして遊んでいる。その日は、鬼ごっこ。1つ年上のサラが好きなペップは、いつもサラが行く、壁の陰に行ってみる。サラはやっぱりいた。サラは、なぜいつもわざと見つかるようにここにいるんだろう? 不思議に思ったペップが理由を訊くと、すぐ見つかってベンチに戻れるからという返事。それに対し、「そんなに遊びたくないなら、なぜ一緒にいるの?」と尋ねる。その質問が、サラに大きな影響を与えるとは考えもせず。それからすぐ、サラの姿は消えた。村中が総動員で森の中を捜しても発見できない。ところが、ペップが自分の部屋に戻ると、サラがいた。そして、無理矢理に泊まろうとする。お陰で、ペップは床で寝ることに。2日目の朝、サラは、部屋に入って来た祖母に危うく見つかりそうになるが、その時はベッドの下に隠れていた時だったので見つからずに済んだ。サラは朝食を要求し、ペップは、自分の分の半分を持って来る。祖母が買い物に出かけると、警官がサラの情報を集めに来る。その時、ペップは、サラが2階の部屋にいるとは言えないので、嘘をつかざるを得ない。すると、警官が帰った後、サラからは、警官に嘘をつくことは捜査妨害だと脅され、サラは部屋に留まり続けることになる。2日目の夜、ペップは、サラと一緒にベッドで寝る。そんなことをしたお陰で、3日目の朝、ペップは寝ている間にした夢精でサラにからかわれる。サラは、服と下着がよごれてきたので、ペップに洗濯を依頼し、ペップはドキマギしながら下着を洗う。そのお礼に、キスの仕方を教えてもらう。そのあとで、サラはペップに大人の秘密について、自分の出生を含めて語る。さらにそのあと、サラは、ペップの亡くなった祖父の愛読書だった『戦争と平和』を見つけ、部屋に持って上がって読み始める。日曜のミサの日、教会で、サラの無事を祈る言葉を聞いたペップは、家に駆け戻ると、みんなに心配をかけないよう、手紙を出すことを強くサラに求める。そして、この村にいることがバレないように、隣の村まで行って投函する。その手紙が届いたお陰で、誰も、サラのことを誘拐だとか遭難だとは心配しなくなった。サラは、鬼ごっこの途中で、家に寄らずにペップの部屋に行ったので、村を出て行くのに必要なお金と、予備の下着を自宅に侵入して取ってくるようペップに依頼する。当然ペップは拒否するが、サラは、そもそも急に失踪したのは、ペップが、「そんなに遊びたくないなら、なぜ一緒にいるの?」と訊いたからだと主張し、ペップは渋々了承する。お金と下着は無事手に入れたものの、そのあとサラの母に見つかったペップは、サラからの手紙の話を訊きに来たと誤魔化し、母の話を聞かされるが、その中で、母は、サラが戻って来ないと確信していることを知る。サラは、ペップに感謝し、いつでも出て行けるが、それは『戦争と平和』を読み終えてからだと告げる。それから読書三昧の日々が続き、ペップの夏休みが終わって都会に戻る前日になる。2度目の洗濯を終えたサラは、開放感と、軽い思慕も加わってペップに手淫をしてしまい、彼のサラへの愛を掻き立ててしまう。その日の深夜、サラは、ペップの涙の懇願を押し切り、家を出て、どこか分からない都会に向かって出発する。ペップは、涙ながらにサラを見送るが、サラは期待と誤解を与えまいと、わざと無視して振り返ろうともしない。ペップにとって誰にでもある思春期の壁は、他の同級生と違って簡単に通り抜けることができたが、それは辛く悲しい思い出となって、一生つきまとうものとなった。「サラのいない人生」ほど味気ないものはなかったからだ。

主人公のペップを演じるのは、エクアドル出身のビエル・ロゼユ・ペルフォート(Biel Rossell Pelfort)。映画出演はこれが初めて。年齢その他、情報は何もない。ネットで検索すると、2016.5.12の記事でラ・モストラの第2回児童・青少年演劇批評コンテストで賞を取った11歳の同姓同名の少年が出てくる(右の写真)。この映画の撮影が2018年とすれば、ちょうど13歳となり、顔立ちも似ているので、同一人物の可能性が高い。

あらすじ

映画が始まると、オープニング・クレジットと同時に、「3、4、5…」と読み上げる声が聞こえ、黒バックから映像に変わり、子供達が走って行く。“かくれんぼ” だ。子供達がいるのは、ひとけもまばらな田舎の村。時代は、表示されないが、原作によれば1981年8月末。13歳のペップは、村の外れの森との境にある壁の陰に隠れる。そこには、先客がいた。1つ年上のサラだ。その時、遠くから声が聞こえる。「30!」。これから、鬼が捜し始める。ペップは、「ここにいて いい?」とサラに訊く(1枚目の写真)。「いいわ。だけど、すぐに見つかるわよ」。「なぜ、いつもここに隠れるの?」。この言葉で、ペップがここに来たのは、サラがいると知った上での行動だと分かる。「すぐ見つかるから」。「なぜ、見つかりたいの?」。「ベンチに戻れるから」。「そんなに遊びたくないなら、なぜ一緒にいるの?」。サラは、質問には答えず、森の方をじっと見つめる。それにつられてペップも森を見る。画面には、雑木や下草で密林のようになった南欧の森が7秒間映される。動きのない森だけに7秒は長く感じられるが、実際には、もっと長かったに違いない。というのは、次の場面で、数えていた “鬼” 役の女の子が、「ペップ」と、見つけたことを宣告するからだ。なぜ、自分1人かと思い、ペップが隣を見ると、サラの姿が どこにもない(3枚目の写真)。
  
  
  

サラ以外の7人がベンチの周りに集まる。少年が4人、少女が3人だ。サラがいないことについては、“鬼” になっていた子が、ペップに、「壁のトコに1人でいたのね」と声をかける。ペップ:「サラがいたんだ」。別の女の子:「サラが いつも隠れる場所ね」。男の子:「で、何してたんだ? 舌を口につっこんで、嫌われたか? 街の奴らなら何でも知ってるハズなのに、お前は何も知らないからな。負け犬だ」。もう1人の男の子:「おい、からむなよ。だいたい、かくれんぼなんか するからだ。サラは、うんざりしたのさ」。「この前、俺もそう言ったぞ」。鬼だった子:「じゃあ、何して遊ぶ?」。「明日、トランプもって来てやる。ハーツでもやろうぜ」。「ババ抜きは?」。こう話しているうちに、教会の鐘が鳴って時を告げる。辺りは、薄暗くなっていて、7人は解散する。ずっとペップの隣に座っていた 鬼だった子は、ペップに気があるので5人がベンチを立ち上がっても、ペップに体を押し付けたまま離れない。連れの女の子に、「何してんの、行くわよ」と手を引っ張られる(1枚目の写真)。ペップが祖母の家に向かうと、途中で、近所の老人同志5人が集まって話している。祖母が立ち上がると、ペップは祖母のイスを持って一緒に家まで歩いて行く(2枚目の写真、矢印はイス)。夜になり、ペップがベッドで横になっていると、窓ガラスに小石が当たる音がする。「ペップ」と呼ぶ声もする。2階の部屋の小さなベランダからペップが姿を見せると、路地には、さっき一緒だった3人の男の子がいる。一番口の悪かった子が、「サラが、家に戻ってない」と言う。「どういうこと?」。もう1人の男の子:「まだ、帰って来てない。村中がサラを捜してる」。ペップも、急いで外に出る。次のシーンでは、村人達が雑草の茂る野原を、「サラ!」と呼びながら捜す光景が映る(3枚目の写真)。サラが見つからなくて一旦村に引き上げたペップ達が見たものは、村長が、「みんな、落ち着くんだ。まだ見つからんということは、サラは隠れているに違いない」と、呼びかけている姿。村長は、3・4人の男性に捜索の継続を任せ、残りは家に戻るよう指示する。
  
  
  

部屋に戻ったペップは、「お願い、サラをお守りください」と、手を合わせて祈る(1枚目の写真)。すると、部屋の隅から、押さえようしても漏れてしまう笑い声が聞こえてくる。ペップは、びっくりして、「こんなトコで 何してるの?」と目を丸くして立ち上がる。すると、ダブルベッドの左隅のサイドテーブルの陰から、「しーっ」と言いながら、唇に指を当てたサラが姿を見せる(2枚目の写真)。「村じゅうが、捜してるんだよ」。「そうなの?」。「今は、数人だけど。どうやって、ここに入ったの?」。「ドアから」。「いつ、家に帰るの?」。「帰らない」。「何 言ってるの?」。「言ったでしょ。戻らないって」。「どこで泊るの?」(3枚目の写真)。「ここよ、あんたさえ いいなら」。「むりだよ」。「さっき、隠してあげたじゃない」。サラは、そう言いながら、ベッドに腰を下ろすと、靴を脱ぎ始める。あくまで、ここで泊る気だ。
  
  
  

ペップ:「両親は?」。「それが?」。「心配してるよ」(1枚目の写真)。「心配すりゃいいのよ。これまで ずっとしてきたんだから、あとちょっとくらい」。そして、ベッドに足を乗せると、「いいでしょ? 今夜だけ」と訊く(2枚目の写真)。そして、返事を待たずに横になる。ペップがベッドの左側に座ると、サラは、横になったまま右を向く。ペップは、出ていけとはとても言えないし、同じベッドに寝る訳にはいかないので、ベッドカバーをめくり、左側の枕を取り出す(3枚目の写真)。そして、床に横になって寝る。
  
  
  

部屋が朝の光で一杯になると、ペップもようやく目が覚める(1枚目の写真)。床に横になっているので、最初に目に入ったのは、サラが脱ぎ捨てたサンダル。頭をもたげると、サラの寝姿が見える。すると、ペップの部屋のすぐ横にあるトイレに祖母が出る音が聞こえる。ペップは、ドアに耳を押しつけ、伯母が出て行ったことを確かめると、ドアを開けてトイレに行き、用を足す。そして、サラがいる手前、乱れた髪を水をつけて撫でつける(2枚目の写真)。そして、再び部屋に戻ると、サラの姿がどこにもない。ペップは、“あれは、幻だったのか?” といった感じで、サラが寝ていた場所に座ると、ベッドカバーの下の枕を取り出し、顔に押し当てて匂いを嗅いでみる(3枚目の写真)。
  
  
  

すると、いきなり足首をつかまれ、「あっ!」と声を上げて飛び上がる。すると、ベッドの下に隠れていたサラが、足首をつかんだまま、「しーっ!」と注意する(1枚目の写真、矢印は足をつかんだ手)。ペップは、ベッドの下を覗き込み、「何してるの?」と訊く(2枚目の写真)。「おばあちゃんが来たと思ったの」。「驚かせないで」。その時、本当にドアが開いて、「どうかしたのかい?」と祖母が入ってくる。「悪夢を見たんだ」。「朝ごはん、食べる?」。「ありがとう、おばあちゃん」。祖母は、ペップの横にあった枕を取り上げ(3枚目の写真)、ベッドに戻すと、朝食を作りに戻っていく。祖母が出て行くと、サラはすぐにベッドの下から出てきて、ドイレに行くが、その前に、「何か食べるもの持ってきて。お腹が空いたわ」と要求する。
  
  
  

ペップが、狭い台所に行って最初にしたことは、フランスパンで作ったサンドイッチを包丁で半分に切り、祖母が外で話し終わる前に、テーブルクロスに包んで隠したこと。何とか間に合って、祖母は、ペップが残った半分を食べているのを目撃する。「まあ、食べるの、えらく早いわね」。「おいしいから」。「サラ・アマットは、まだ見つからないそうよ。あなた、サラと親しかったんじゃない? 心配しないで。無事に決まってるから」。祖母が外から呼ばれると、ペップは、ミルクとパンを持って部屋に戻る。両手が塞がっているので、足で押してドアを開け、足で閉める(1枚目の写真)。すると、サラはまたベッドの下に隠れている。そして、「今度から、あんただって、合図してよ。口笛を吹くとか、歌でも歌うとか、何でもいいから」と要求する。サラが、パンをかじっていると、窓からペップを呼ぶ声が聞こえる。昨夜の3人のうちの2人で、サラがまだ見つからないので、一緒に捜しに来いと誘う。ペップは、宿題があるからと断り、その “友達がい” のなさに 「くそくらえ」と罵られる。それを聞いていたサラは、「バカな奴」と見下したように言う。ペップは、「彼が嫌いなの?」と訊く。「気に障るのよ。あんた 夏しか見てないでしょ。あいつ 村長の息子だから、自分がボスだと思ってるの」。その時、祖母が「ペップ」と呼ぶ声がする。祖母が上がってくる様子なので、ペップは至急、洋服ダンスの中にサラを隠す。扉を閉め、扉の全身鏡でペップが髪を触っているフリをしていると、祖母が入って来る(2枚目の写真、判りにくい写真だが、洋服ダンスの扉の鏡に映ったペップと祖母)。祖母は、「今日は、プールに行かないのかい?」と訊く。「ここにいるよ」。「ちょうどよかった。一緒に来て、手伝って」。祖母は、玄関の脇の棚に山と積んである靴の箱の中から、要らないものを屋上に持っていってもらうため、ペップに次々と手渡す。最初の箱には、履く予定だった男性が、履く前に死んでしまった靴が入っている。2つ目の箱の赤い靴は、祖母が10年以上も履いていたもの(3枚目の写真、矢印、赤い靴は後で出てくる)。全部で5つの箱を渡されたペップは、屋上まで持って行く。
  
  
  

用が済んだペップは、サラに言われたことを忘れず、歌を歌いながらドアを開ける。すると、サラが鏡にキスしていたのでドッキリする。「何を見てるの?」。「君だよ。ねえ、サラ、そろそろ家に戻ったら?」。「戻らないって言ったでしょ」。「ずっと?」。「絶対」。「両親はどうするの?」(1枚目の写真)。「私の両親の心配なんか しないでよ。あの人たちを安心させてやりたいの?」。「何でそんなこと言うの?」(2枚目の写真)。「安心させたくないから」。サラの家では、母親が夫に向かって、「村長のトコに行って、何とかしてもらいなさいよ」と冷たく言い放つ。夫は、「やるだけのことはやってる。俺に向かってガタガタ言うな」と反論、「なら、捜しに行ってよ」と再反論される。2人の間には何の愛情もない(3枚目の写真)。台所では、祖母とペップがお菓子を食べている。先に食べ終わった祖母は、「乾物屋に行ってくるから、ここで店番しててちょうだい。もしお客が来たら、待っててもらって。すぐに戻るわ」と言って出かける〔ここは、小さな床屋〕。ペップは、1人になると、床屋の鏡に向かって、さっきサラがしていたようにキスしてみるが(4枚目の写真)、その姿を、階段をこっそり降りてきたサラに見られてしまう。
  
  
  
  

すると、ノックの音がして、警官が2人入ってくる〔ドアは内側に開いているので、ドアの柱をノックした〕。年配の警官(A)が、「君が、ペップ君だな」と声をかける(1枚目の写真)。「はい」。「お祖母さんは、どこかね?」。「乾物屋です」。若い方の警官(B)が、「我々が、なぜ来たか、分かるよな?」と訊く。「サラ・アマットのことですか?」。A:「そうだ。消えた君の友達だ。君は、サラを見た最後の人間だそうだな」。「そうです」。「彼女は、君に何か話したか?」。「何もです」。「何か言ったはずだ」。「かくれんぼは、嫌いだって」。B:「偶然とは思えんな」。A:「悲しそうだとか、心配そうに見えたか?」。「いいえ」。「様子はおかしかったか?」。「少しだけ」。「どんな風に?」。「サラは、何となく いつもと少し違ってました」。「どうして、そう思う?」。「分かりません」。B:「友達の話じゃ、君はサラが好きだったそうだな。言いたいこと、分かるだろ?」。「違います」。「違うのか?」。「はい。好意は持ってますが、それだけです」。A:「最初の48時間が、生きて発見されるかどうかの瀬戸際だと知ってるか?」。B:「この人が言ったのは、君が知ってることは全部話せってことだ。どんな些細なことでも」。「知ってることは、すべて話しました」(2枚目の写真)。警官は、この返事に満足して出ていく。ペップは、すぐに台所にいるサラを振り返ると、「何してるの? 見られたかもしれないのに!」と、文句をつける。サラは、「黙っててくれてありがとう」と言うが、すぐに、「これで、あんたも、私の共犯者になったわね」と、付け加える。「君、何か罪を犯したの?」。「私はしてないけど、あんたは犯したわ」。「どういうこと?」。「警官に嘘ついたでしょ。捜査妨害になるわ」(3枚目の写真)。これで、ペップは、サラに 「出ていけ」とは言えなくなる。
  
  
  

サラは、ペップのベッドに横になると、のんびりとシエスタ(昼寝)。ベッドを占領されたペップは、ベッドに座ると、剥き出しになったサラの脚に触ってみる(1枚目の写真)。その日の夕暮れ時。7人はベンチの周りに集まる。女の子Aが、「謎なんか何もない。彼女は出てったのよ。それだけ」と言うと、女の子Bは、「まだ14なのよ。なぜ、1人だけで出てったのよ?」と訊く。村長の息子は「そうすりゃ、村中が心配するからさ」、ペップに気のある女の子Cは「置手紙くらいできたはずよ。冷酷なだけ」と、それぞれ、サラを批判する。男の子A:「着替えのバッグも持たずにか?」。女の子B:「逃げ出したかったんだわ」。女の子C:「何から?」。男の子C:「もし、妊娠してたら?」。この説は、数人からバカにされるが、村長の息子は、「何で? ありかもな」と支持する。女の子C:「父親は誰?」。「イースターの時に来たフランス人の息子さ。サラ、奴とくっついてなかったか?」。女の子C:「ありかもね」。ペップは不快そうに、それを聞いている。部屋に戻ったペップは、ベッドの前に絨毯を敷き始める。サラは、「何、バカやってるの? ベッドで寝なさいよ」と言うが、ペップは、「寝ない」と断り、靴を脱ぎ始める(2枚目の写真)。「お祖母ちゃんが入ってきて、いちゃついてると思われるのが怖いんでしょ?」。「嫌だからだよ」。「どうして?」。「君にはボーイフレンドがいるから」。「私に? 誰よ?」。「フランス人の子」。「あのバカたちが、そう言ったの?」。「そうじゃないの?」。「違うわ。彼とは、フランス語の練習をしてただけ。妬いてるの?」。「ううん」。サラは、ペップの頭髪をつかんで、「そうなんでしょ?」とからかう。「ほっといてよ」。「来なさいよ」。ペップが、座ったまま何も言わないので、サラは、「勝手になさい」と言うと、ベッドに横になり、自分の側のサイドテーブルのランプを消す。しばらくどうするか迷ったペップは、サラの横に仰向けに寝ると、「サラ」と声をかける。3度呼んでも返事がないので、体の向きをサラの方に変えると、左手でサラの髪を撫で、肩に触れる。サラが、満足そうに微笑む(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、朝。次の場面は、絶対に変なのだが、ペップがベッドの右側に寝ていて、仰向けになって目を覚ます。そして、様子が変だと感じ、手をパンツに持って行く。そして、敷布をめくり、中を覗いてみる(1枚目の写真)〔生まれて初めて女の子と一緒のベッドに寝たので夢精した〕。サラは目を覚まして、「お早う。お腹空いた。今日も、朝ご飯持ってきてくれる」と頼む。「今?」。「さあ、行って」と、肩を押される。ペップはシャツを引っ張って前を隠しながらドアに歩いていく。「まさか、おねしょしたなんて言わないでね?」。「してないよ」(2枚目の写真)。「冗談よ。あんた、昨夜、男になった。そうでしょ?」。サラは、そう言いながら笑い続けるので、恥ずかしくなったペップは、急いでドアから出て、すぐ脇のトイレに入る。まずしたことは、バスタブに座り、恥ずかしくて両手で顔を隠したこと(3枚目の写真)。冷静になると、洗面の脇のタオルでパンツを拭く。そのあと、鏡で自分の顔を見て満足げにニッコリすると、置いてあったオーデコロンを頬につける。サラの公認のボーイフレンドになった気がして、心は高揚している。
  
  
  

朝食のシーンはなく、日中、ペップがご機嫌でプールではしゃぐシーンの後、食堂でうたた寝している祖母の前を、ペップが昼ごはんをこっそり運んでいく短いシーンが挿入される(1枚目の写真)。一方、サラは、ベランダの窓からこっそり自分の家を見ている〔ペップの家の数軒向こうがサラの家。同じ並びなので、見えるのは、家の前で話している両親と2人の警官〕。ちょうど会話が終わったところで、警官がパトカーに乗るのを母が見送っている〔父は、すぐ家に入ってしまう〕。そこに、ペップが料理の入った皿を持って入って来る。次のシーンでは、ペップはどこかに行ってしまい、サラが1人で部屋にいる。ベッドの上には、ペップの布バッグから、マンガ本が溢れ出している。サラは、そのうちの1冊を見てみるが(2枚目の写真)、知的なサラには、子供っぽ過ぎて見るに堪えない。その時、ドアの外で急に祖母の声がする。「イカを食べる?」。サラは、ギリギリ間に合い、ベッドの下に隠れることができた。祖母は、「ひどい匂いだね」と言うと、窓を開ける。そして、サイドテーブルの上に置いてある写真立ての亡き夫に向かって、「あの子ったら、いつもお腹を空かしてる。もっと大きなサンドイッチを作らないと」と言いながら、ベッドの上に散乱していたマンガ本を全部 布バッグに入れ、それを洋服ダンスに入れる〔サラがそこに隠れていたら 見つかった〕。そして、「どんどん大きくなってる」と言いながら、シーツを集める(3枚目の写真)。「あの子、日に日にあなたに似てくるわ。1週間して帰ってしまう時には、悲しい思いをするでしょうね」。祖母は、ベッドをマットレスだけにすると、残りは洗濯するために両手に抱えて部屋から出て行く。
  
  
  

恐らく次の日。1階からペップの歌うような声が聞こえてくる。「♪僕たちだけ!」。2階まで上がってきたペップは、「おばあちゃん、出かけた。2・3時間戻って来ない。てことは、この家には僕たちしかいない」と嬉しそうに言う。「じゃあ、シャワーを浴びるわ。代わりに着るものがないと」。そう言うと、サラは部屋に戻り、洋服ダンスを開ける。そこに掛かっていたのは、祖母の昔の服。サラは青いワンピースを選ぶと、「あなたのお祖母ちゃん、写真のお祖父ちゃんと、まだ生きてるように話すの知ってた?」と言いながら鏡台の前に行くと、着ている服を脱ぎ始める(1枚目の写真)。ペップは、思わず、目がくらくらしてしまう。サラは、「どしたの? ビキニ見たことないの?」と平気だ。「そうだね」。サラは、下着を付けたまま祖母のワンピースを着ると、ブラを袖から、パンティは下から脱いで取り出す。そして、それまで着ていたワンピースの上に2点を載せると、「洗ってきてくれる?」と頼む。3点を捧げ持ったペップは、屋上まで行き、洗う前にパンティの匂いを嗅ぐ(2枚目の写真)。そのあと、大きなバケツに入れ、自分の頭にホースで水をかけながら、バケツを満たし、洗剤を入れて手でもみ洗いする。そして、屋上に張られた洗濯紐に3点を干す。そうしていると、シャワーを浴び、祖母のワンピースを着たサラが屋上に上がって来る。「私、きれいだと思う?」。「そう思うよ」。「それだけ?」。「僕が これまで会った、一番の美人だ」(3枚目の写真)。それを聞いたサラがほほ笑む(4枚目の写真)。
  
  
  
  

サラは、壁際に置いてある箱の中身を知りたがる。それは、数日前、ペップが運んできた靴だった。サラが開けた箱の中には、祖母の使い古した赤い革のサンダル・シューズが入っていた。ペップは、誰も履かなかった厚底〔10センチ近い〕の革靴を取り出す。ペップの提案で、2人は、それぞれの靴を履いてみることにする。ペップは、ただ、厚底の靴を履いてみたかっただけなのだが、ふと気づくと、サラは、パンティを履いていない状態で、足を剥き出しにしてサンダルを履いていて、ペップの目が釘付けになる(1・2枚目の写真)。靴を履いて屋上の手すりまで行った2人。ペップは、思わず、サラにキスしてしまう(3枚目の写真)。それは、1秒以下で終える軽いキスだった。サラは、「それ、何なの?」と訊く。「キスだよ」。「それが、あんたのやり方?」。「ファースト・キスだよ」。「口を開けて、目を閉じて。私のやり方よ」。そして、15秒続くディープキス(4枚目の写真)。「悪くないでしょ?」。ペップは 口もきけない。サラは、「この家には、何か本はないの?」と訊く。
  
  
  
  

サラは、1階に降りて行くと、いきなり、「この家で、何か秘密に気付いた? 誰にでも秘密はあるの」と訊く。「おばあちゃんにはないよ」。「大人は、誰でも持ってる」。「知りたくないな」。しかし、サラは、自分が発見した秘密について話し始める。「1ヶ月前、母さんの部屋で、ラブレターを何通か見つけたの。ビダルの父さん〔村長〕からのやつ。母さんが結婚する前よ」。「ラブレターだと、どうして分かるの?」。「ラブの意味くらい知ってるでしょ? 手紙は、未成年禁止の内容だった。最悪なのは日付けが9月だったこと。両親が結婚したのと同じ月よ。私が生れたのは、翌年の6月なの」〔10ヶ月なので、どっちの子でもあり得るのだが…〕。「それで?」(1枚目の写真)。「あの、くそビダルが、私の兄になる」。「君の父さん、それ知ってるの?」。「もちろん! 結婚する前から知ってたと思う」(2枚目の写真)。「だから、家出したの?」。答えを聞く前に、祖母が帰ってくる。念のため、ペップは戸口に鍵をかけておいたので、祖母はドアを何度もノックする。ペップはサラを急かすが、サラは、度胸が据わっているので、写真立てと一緒に置いてあった亡き祖父の愛読書を持って階段をゆっくり上がっていく。ペップはトイレに入っていたことにして、ドアを開ける。その時、電話がかかってきて、祖母の代わりにペップが電話を取ると、それは母からだった。来週の日曜までという滞在を 早く切り上げたらという提案だったが、今離れるわけにはいかないペップは、「おばあちゃんも、一緒にいて欲しいって」と言い、祖母に受話器を向け、「毎年、夏が来るのを楽しみにしてるのよ!」と叫んでもらう(3枚目の写真、矢印は受話器)。
  
  
  

その日の夜、サラは小説に没頭し、ペップは、マンガ本を見ている。サラが、祖父の大事にしていた本に書き込みをしているのを見たペップは、「何で、本に書いてるの?」と尋ねる。「私は、いつも こうやって読むわ。気に入った文章があったら、アンダーラインを引くの」。「それ、おじいちゃんの本だって言ったじゃないか」(1枚目の写真)。「じゃあ、お祖父さんの許可を取れって言うの?」。「死んだ人に対して、もっと敬意を払ったら?」(2枚目の写真)。「死んだ人? もう、いないじゃない」。「だけど、きっと見てるよ」。「あんた、幽霊を信じてるの?」。「じゃなくて、分かんないけど、僕たち死んだら、何か起きるんじゃない?」。「何を期待してるの? 死んだらそれで終わりよ」。「本気で、そう思ってるの?」。「ええ」。「怖くないの?」。「いいえ、ぜんぜん。怖いことが一つあるから」。「それ何?」(3枚目の写真)。「このバカな村で、腐っていくこと」。サラの家出の動機が明らかになる。
  
  
  

ペップと6人の村の子達は、夜暗くなってから、映画に最初に出てきた “村の外れの森との境にある壁” のところに集まっている。遊んでいるのは、ビンを回して当たった子とキスするゲーム。ペップが回して当たったのは、ペップに気のある女の子。ビダルは、「こいつ、キスの仕方も知らないぞ」と言うが、その日の朝、サラからディープキスをしてもらったばかりのペップは、同じような激しいキスをしてみせる(1枚目の写真)。みんなは驚いて、女の子達は拍手する〔一番満足したのは、相手の女の子〕。その時、警官が懐中電灯を持って現れて キスを中断させ、強制的に解散させる。ペップが部屋に戻ると、サラは、相変わらず小説を読みふけっている。「私の壁の後ろで何してたの?」。「タバコ。ペレが、父さんのタバコを数本持って来たんだ」。それを聞いたサラは、タバコの臭いがするかどうか確かめに行く。そして、代わりに、唇の周りに別の女の子の匂いを嗅ぎ取り、「最低。あんた、知ったかぶりのロゼとキスしたのね。舌を使ったの?」と訊く(2枚目の写真)。「少しだけ」。嘘だと分かっているので、サラは、洋服ダンスを開けると絨毯を取り出し、そこで寝ろとばかりに、床に投げる。翌朝、絨毯の上に枕を置いてペップが寝ていると、教会の鐘が鳴り、サラが、足でペップの腕を押して起こす(3枚目の写真)。「何だよ?」。「教会に行くんじゃないの?」〔ということは、この日はミサのある日曜日。ペップは日曜に帰ると言っていたので、あと1週間しか村にいられない〕
  
  
  

ペップは、祖母と一緒に教会に行く(1枚目の写真)。今では、ペップも、サラの母を見る村長の微妙な目線に気が付く。村長は、妻の横に座った後も、サラの母と視線を交わす。それを見て、汚い大人の世界が嫌になったペップは、2階の聖歌隊のバルコニーに行く。そこにいたのは、ビダル達3人で、叔父から盗んできたというヌード雑誌を見ている。付き合いきれないと思ったペップは、1階で仲間の少女が演壇に立って読み上げる言葉に耳を傾ける。「神よ。私達は、世界に広がる飢餓がなくなることを祈ります。今日は、特に、サラについて祈りたいと思います。サラが危害に合いませんように。飢えと寒さに苦しみませんように。そして、できる限り早く、無事に戻ってきますように。信仰により、この悲痛な時を乗り越えんとされているご両親のために、祈りましょう」(2枚目の写真)。それを聞いたペップは、居たたまれなくなり、教会から逃げ出すと、一目散に家に向かって走る。この映画の中で映る 一番スペインらしい傾斜地の路地は、3枚目の写真。右の写真は、これとよく似た、私の大好きな丘の町モレリャ(Morella)の路地。パン屋の前に積まれた薪と、それを使ってパンを焼く白い煙が印象的だ。
  
  
  

部屋に戻ったペップは、まず、顔に溢れた涙を拭う(1枚目の写真)。そして、まだ泣きながら、「サラ、みんなが苦しんでる!」と呼びかける。「そう? なぜ?」。「君が消えたからだ!」。「私のせい?」。「分からないの? みんな、君が死んだと思ってるんだ!」。サラは、冷静そのもの。「どうせ、忘れるわ」。ペップは、ノートを取り出すと、読んでいた小説を取り上げ、「両親に、手紙を書くんだ」と命令するように言う。「何て書くの? あんたに誘拐されたって?」。「違う。元気だって書くんだ。何事もなかったって」。「それを、広場のポストに入れるわけ? 私が村にいるってバレちゃうじゃないの」。「違う。自転車でラ・モラまで行って出す」〔La Móraは、映画を撮影したEl Talladellの東2キロにある〕。それだけ言うと、ペップは、サラの前にひざまずき、「お願い」と頼む。この純粋なお願いに、サラは渋々鉛筆を握ると、ノートに手紙を書き始める(2枚目の写真)。その間も、ペップはずっと泣いている。手紙を受け取ったペップは、自転車を力いっぱい漕ぎ、隣の村に向かう〔どうせ他の場所にするなら、寒村ではなく、西2キロにあるタラガ(Tàrrega)という人口2万弱の町にしなかったのだろう?〕。ペップは ラ・モラの広場にあるポストに投函するが(3枚目の写真)、ペップの村以上に閑散とした小村なので、警察が本気で調べたら、投函者がすぐにバレてしまいそうな場所だ。
  
  
  

恐らく、翌日。ペップは、ベッドに横になって本を読み続けるサラをじっと見ている(1枚目の写真)。そのうちに、サラが、アンダーラインを引く。「何にアンダーライン引いたの?」。サラは、読み上げる。「他人の生き方に引きずられるのは不愉快だ。彼女も、自分なりに生きるのに必死だった」(『戦争と平和』、第29章)。「なぜ、そこが気に入ったの?」。「私みたいだから」。「どういう風に?」。「諦めちゃいけないの。自分なりに生きようと戦わないと。他の人達の生き方を真似るのではなくてね」。「じゃあ、その本、気に入ったんだね?」。「最高よ。これホントにお祖父さんのお気に入りだったの?」。そこから、祖父がどんな人だったかを巡り、悪口を言うサラと、ディフェンスするペップが、ベッドの上でお互いに足を蹴り合ってじゃれる。そのうち、ペップを押し倒したサラが、ペップをベッドの上に組み敷く(2枚目の写真)。サラは、そのままペップにキスしそうになるが、ドアの外で、「ペップ!」と祖母が叫ぶ声が聞こえ、サラは、大急ぎでベッドの下に隠れる。「あなたの友達が、手紙を書いたわよ! サラがご両親に、無事だって書いて寄こしたの」。「いる場所、書いてあった?」。「いいえ。ただ、元気だから 心配しないでって」。そう言うと、祖母は、ペップの顔に手をやり、「嬉しくないの?」と訊く(3枚目の写真)。「もちろん、嬉しいよ」。祖母は、ペップが手にした祖父の本を見ると、「マンガしか見ないかと思ったわ」と驚く。「前はね。今は、大きくなったから」。祖母は二重に満足して出て行く。ペップは、「嘘、嘘、嘘、もうイヤだ!」と、“嘘ばかりつく自分” が悲しくなる。
  
  
  

ペップが、8年生用の数学の教科書を紙で包み始めると、サラが代わりにやろうとする。そして、「あんたが、私のためにやってくれるなら、これ してあげる」と条件をつける。本を紙で包む簡単な作業の対価としてサラが要求したことは、「私の家に行き、私の部屋にあるお金を取って来て」という無茶な仕事。ペップは、「そんなの無理だよ」と、尻込みする(1枚目の写真)。「簡単よ。やり方、教えるわ」。「捕まっちゃう」。さらに、「この村から出てくつもりだったんなら、なぜお金くらい持って来なかったの?」と疑るように訊く。サラは、2年前から逃げ出したいと思っていたが、実行できなくて今に至った。急にその気になったのは、「あんたのせい」と言い出す。そして、映画の冒頭で、ペップが投げかけた質問を、口にする。「そんなに遊びたくないなら、なぜ一緒にいるの?」。「それと、家出と、どう関係するのさ?」。「何もかも」。サラは、こうして、はっきりしないまま、原因をすべてペップに押し付け、実行犯の説明に入る。「今が、ちょうどいい。父さんは庭に出てていない。部屋に行ったら、他にも幾つか取って来て」。「何?」。「パンティとブラ」。おとなしいペップは、仕方なく出かけて行くが、勇気がでなくて、サラの家の前を通過してプールでひと泳ぎ。戻ってくると、サラの家から村長が出て来る。サラの母も続いて出てきて、道の真ん中で2人は何か話している。最後に、村長はサラの母の頬にキスし、そのままヘップの家の方に行き、サラの母は家に入る。ペップは、1つ手前の家の戸口に隠れてそれを見ている(2枚目の写真、矢印は隠れたペップ)。サラの母がいなくなると、ペップは姿を見せ、勇気を奮い起こして戸口に向かう(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、迷わずドアを押して中に入る。1階は物置のようになっているので、階段で2階に上がる。2階では、サラの母が作業をしていたが、ペップは構わず、奥にあるサラの部屋に向かう。部屋のドアは開いていて、ベッドの枕の上に置いてあった縫ぐるみの人形のスカートをめくると、教えられた通り、コインがぎっしり詰まったポリ袋が入っていた。ペップは、次いで棚に行き、引き出しを開けて下着を取り出す。言われたことが終わり、顔を上げると、壁一面に、サラの描いた絵が描いてある(1枚目の写真)。それは、最初から壁に掛けられていた額の絵のイメージを膨らませ、そこに、①壁に直接描いた絵、②絵を描いた小さな紙を貼ったもの、③木の葉や枝、などを混ぜてつくった巨大なアート作品だった。見とれていたペップは、音がしたので、慌てて戸棚の扉の陰に隠れるが、それでは半身しか隠れない。ペップの立てた音で、サラが帰ってきたと思った母親が、部屋を覗きに来る(2枚目の写真)。幸い、もう一歩中に入って捜し回るようなことはしなかったので、見つからずに済む。しかし、階段を下りて行く時の音が聞きつけられ、母親が、「そこに誰かいるの?」と階段を見る。覚悟を決めたペップは、「サラから、もっと何か聞いていないか、教えてもらいに来ました」と誤魔化す。母親に呼ばれて、再び階段を上がったペップは、以前、この母と夫が言い争っていた場所に座り、サラが最初に書いた手紙を読み聞かされる。「母さんと父さんへ。心配かけるといけないので書いています。私は元気です」。母親は、「如何にもあの娘(こ)らしいわ」と、すげなく言う。「何がですか?」。「私達を子供扱いしてる。だけど、あの娘らしくないトコもある。追伸に、『私なりに、愛してます。知ってるでしょ』って書いてある。こんなの初めてだわ。サラにとって感情は厄介者だった。誰かに説得されて書いたのね」。「その誰かは、家に帰れと説得できるかもしれませんね」。「警察もそう言ってたけど、そんなことのできる人間はいないわ。サラは二度と戻って来ない。」(3枚目の写真)〔以前の対夫との会話でも感じたが、この母親は非常に冷たい人間だ。自分の子でもないサラを、父親が嫌うならまだしも、自分の不倫で生んだ子に対するこうした言動は、観ていて不愉快だ〕
  
  
  

部屋に戻ったペップは、サラにお金を渡す。「よくやったわね。なぜこんなに時間がかかったの? 捕まっちゃったかと思って、心配したのよ」。「捕まったよ。出ようとしたら、君の母さんに見つかったんだ」(1枚目の写真)。「それで?」。「君のことを話してくれた。何て言ったか知りたい?」。「ううん。やめて」。「どう思ってるか、知りたくないの?」(2枚目の写真)。「知ってるわ。ほっとした罪悪感」。そして、自分の家庭の状況について、再びトルストイを引用する。「幸せな家庭はみんな似ている。不幸せな家庭には、それぞれの事情がある」(『アンナ・カレーニナ』)。「下着は?」。サラは、自分でペップの布バッグから取り出す。そして、コインの詰まったポリ袋からお札を取り出すと、「これ、お駄賃」と言って差し出す。ペップは、「要らないよ」と断る。「取って」(3枚目の写真、矢印はお札)。「要らないったら!」。ペップに対し 失礼なことをしたと気付いたサラは、「ごめんなさい。許して。あんたがしてくれたことに感謝してる。勇敢だったわね。これまで、私のために誰もこんなことしてくれなかった」と謝り、キスをする。ペップは、その言葉とキスでサラを許し、「お金が手に入ったから、出て行くの?」と尋ねる。「そうよ。でも、その前に、本を読み終えないと」。
  
  
  

それから、サラが出て行くまでの数日間の様子が短いカットで紹介される。ペップがサラの横に寝て、パンを食べながら、「僕、読書は嫌いだ。好きなのは、マンガ本に、食べること、それに、君」と言うシーン(1枚目の写真)。サラが床に座って本を読んでいると、ペップがリンゴを渡すシーン(2枚目の写真)。最後は、本を抱いたまま寝てしまったサラを見て、本のページをチェックし(3枚目の写真)、読んでいたところに鉛筆を挟んでサイドテーブルに置くシーン。このシーンでは、残りのページは僅かになっている。
  
  
  

屋上での2度目のシーン。サラは出立に向けてシャワーを浴び、着ていたワンピースと下着をもう一度洗濯して乾かしている。屋上の手すりに持たれて体をリラックスさせているサラを、ペップがじっと見ていると、「何してるの?」と訊かれる。「そばかすを数えてる」。「いくつあった?」。「33」。「もっとたくさんあるわ。幾つかは隠れてるの。1つ見てみたい?」。そういうと、胸を開いて見せる。「どんな形してた?」。「ハート形」(1枚目の写真)。「ビンゴ」。「もっと、隠れたトコにあるの見たい?」。サラは、パンティを下ろしてそばかすを見せ、「触ってもいいわ」と誘う。ペップは言われたままに指を入れると(2枚目の写真)、「くすぐったいわ」と言われてしまう。「ごめん」。サラは、ペップの目を見ながら体をよせると、ペップのパンツに手を入れ、手淫を始める(3枚目の写真)。ペップは思わぬ行為に驚くが、やがて快感の方が勝ってくる(4枚目の写真)。どの段階かは分からないが、いつしかサラは手を抜き、屋上から出て行こうとする。「どこに行くの?」。「本を読みに」。1人屋上に取り残されたペップは、大の字になって寝転がり、信じられないような体験をしたことに、茫然自失する(5枚目の写真)。
  
  
  
  
  

その日の夕方、いつもの7人がベンチの周りに集まっている。ビダルが、「ちきしょう。月曜から学校が始まっちまう。俺が村長になったら、学校は3ヶ月だけ、あとはバカンスだ」と生意気なことを言い出し、ペップは白ける。次に口を開いたのは、ペップに気のある女の子。ペップに、「この三つ編み、私が編んだのよ」と、前に座っている子の髪を見せ、「私、手の動かし方が上手なの」と、そそるように言い、みんなに冷やかされる。そのあと、「明日は、いつ発つの?」と訊くので、この日が土曜日だと分かる〔ペップは日曜に帰宅する〕。「ランチのあと」。「壁の裏で、さよなら言いたくない?」。この発言も、ペップ以外の全員から冷やかされる。ペップは、「もう行くよ。荷造りしないと」と言い、女の子達と握手する。気のある女の子は、「11月には戻る?」と訊く〔万聖節〕。「どうかな」(1枚目の写真)。ペップは去って行き、女の子は、さらに冷やかされて恨めしそうだ。次は、映画の冒頭と同じように、祖母の前を通り、イスを持って一緒に家まで戻る。途中で、「辛いわね、お友だちと別れるの… というか、サラと」と祖母に言われ、思わずじっと祖母の顔を見る。祖母は、「心配しないの。愛する人は、遠く離れても、いつも心の中にいるわ」と教え(2枚目の写真)、優しく頬にキスする。暗くなり、サラは、『戦争と平和』を読み終える。そして、本を抱いたままじっと横になる(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、ベッドから起き上がると、サンダルを履き、「今、何時?」と訊く。「12時半」。サラが窓に行くと、家の前の道には歩いている人がいる。ペップは、「今すぐ出てくの?」と訊く。「誰もいなくなるまで、30分待つわ」。「どこに行くの?」。「森を通って、道路に出たら…」と言い、ヒッチハイクの動作をする。「停まらなかったら?」。「女の子なら停まるわ」。「怖くない?」。「怖いものなんかないって言ったでしょ」。「手紙くれる?」。「書くの、好きじゃない」。「ハガキなら? ビッグ・ベンの絵葉書、送ってくれる?」。サラは、ペップの顔をじっと見ただけで、何も言わない。ペップは、行動を起こす。サラに抱きつき、「サラ、お願い、行かないで」とすがるように頼む。「冗談でしょ?」。「今からでも家に戻ればいい。転んで、頭を打って、自分が誰だったか忘れたと言えば?」。「バカ言わないで。そんなの誰も信じないわ」。「話なら、何でも作れるじゃないか。得意だよね。言い訳を考えるの」。「分かってないわね」。「何を」(1枚目の写真)。「何もかも。あんたには分からない。ガキだから」。「君より1つ年下なだけだ。それに、もう、男になった」。「男なら泣かない」。「行かないで、サラ」。「なぜ?」。「愛してる」。「そう思ってるだけ」。「愛してるよ」。「もう、止めて」。「サラ、愛してるんだ」。「二度と言わないで!」。サラは、それでも、言おうとしたペップの頬を叩く。「二度と言わないで。ホントの愛じゃない。あんたに自慰させたから、愛してると思ってるだけ」。ペップは、泣きながら訴える。「そんなんじゃない。僕は、昔から君を愛してたし、君だって知ってるはずだ」。「もう行くわ」。「まだ、30分経ってないよ」。サラは、その言葉を無視し、「いろいろありがとう、ペップ」と言い、部屋を出て行く。ペップは、バルコニーに立って、去っていくサラを見送る(2枚目の写真)。しかし、サラは一度も振り返ることなく歩いて行く(3枚目の写真)。ただ、非情に見えたサラだったが、ペップが嫌いだったわけではない。森の中を歩くサラは、むせび泣いている(4枚目の写真)。ペップのことは好きだったけれど、この村から出ていかなかったら自分が破壊されると思い、仕方なくペップを振り切ったのだ。
  
  
  
  

日が開け始めた頃、ペップは、左に腕を伸ばし、誰もいないことを思い知らされる。同じ頃、サラは森を出て道路に辿り着いていた。彼女は、ガードレールを跨いで道路に入ると、手に持ってきた祖母の赤いサンダルに履き替える。そして、道路を歩き始める。ベップは、サラが残していった『戦争と平和』を胸に抱きしめ、悲しみにくれる(1枚目の写真)。サラは、ようやく通りかかった車に向かって手を上げる(2枚目の写真)。乗用車が停まってくれたところで映画は終わる。原作によれば、2人が遭うことはなかった。
  
  

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